正常性バイアスを実際の例を用いて解説

心理学
AD

正常性バイアスとは?

正常性バイアスは、心理学用語で認知バイアスの一種であり、正常化の偏見、日常性バイアス、恒常性バイアスとも呼ばれており、社会心理学や災害心理学で主に使われています。

自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまうことであり、確証バイアスにも似ています。

日常生活の中で生じる予期せぬ変化や新しい事象に、心が過剰に反応して疲弊しないために、人間の心は、予期せぬ出来事に対して、ある程度「鈍感」にできています。

これは、普段の生活ではむしろ、プラスの影響をもたらしますが、災害時など、緊急時には悪影響を及ぼします。

自然災害や火事、事故、事件など、予想外の事態に発生した時に、正常な日常生活の延長上の出来事として捉えてしまい、都合の悪い情報を無視したり、「自分だけは大丈夫」「今回は大丈夫」などと過小評価して、逃げ遅れてしまう原因になります。

これには、現状維持バイアスも関係しています

正常性バイアスの働いた例

正常性バイアスは、自身や洪水など、自然災害などが発生した時に働きやすいものです。

実際に、正常性バイアスのせいで被害が拡大してしまったとされる例を紹介します。

東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)

東日本大震災の前から、津波避難をめぐる課題として「警報が出ているのを知りながら避難しない」人たちがいることが指摘されていました。

東日本大震災では、地震発生の後に、大規模な津波が到達するまで、約1時間あり、自治体によって警報も発令されていました。

しかし、実際に、地震発生直後のビッグデータによる人々の動線解析で、ある地域では地震直後にはほとんど動きがなく、多くの人々が実際に津波を目撃してから初めて避難行動に移り、結果、避難に遅れが生じたことが解明されました。

東日本大震災で、相当数の犠牲者が出てしまったのも、正常性バイアスの影響がかなり強かったのではないかとされています。

大邱地下鉄放火事件

2003年2月18日に、韓国の大邱市で地下鉄火災が起きました。

多くの乗客が煙が充満する車内の中で口や鼻を押さえながらも、座席に座ったまま逃げない様子が乗客によって撮影されており、正常性バイアスが働いたのではないかと考えられています。

「被害はたいしたことがないのでその場に留まるように」という旨の車内放送が流れたという証言もあり、こうした対処が正常性バイアスを助長した可能性もあります。

正常性バイアスの影響もあってか、この火災は当時において、世界の地下鉄火災史上で2番目となる198人以上の死者を出してしまいました。

西日本豪雨

2018年(平成30年)の6月末~7月初めにかけて、西日本を中心に広い範囲で発生した集中豪雨があったのを覚えているでしょうか?

豪雨の原因は台風7号や梅雨前線とされていますが、気象庁が事前に記者会見するなどして警戒を繰り返し呼びかけを行っただけでなく、数十年に1度の大雨が予想される「大雨特別警報」も発令していました。

しかし、残念ながら「大雨特別警報」発令後も、すぐに避難しない人が多かった。

実際に、浸水で多数の犠牲者が出た岡山県倉敷市真備町では死者の約8割にあたる約40人が屋内で発見されており、逃げ遅れて溺死した人も多かったと考えられています。

川治プリンスホテル火災

1980年(昭和55年)11月20日に、栃木県塩谷郡藤原町(現在は日光市)川治の川治温泉にあった宿泊施設「川治プリンスホテル雅苑」で火災事故が発生しました。

死者45人、負傷者22人にのぼる被害を出し、戦後の日本において、宿泊施設の火災としては最悪の惨事でした。

火災が発生した日は、ホテルで自動火災報知設備の増設工事をしており、1時間ほど前に火災報知器の点検作業をしていた。

そのため、火災報知器のベルが鳴った際も、ホテル従業員は工事によるものと誤認し、確認せずに「ただいまのはベルの訓練です」という館内放送を流していました。

結果的にこの案内が被害を拡大させてしまいました。

また、専任の防火管理者がおらず、消防計画も作成せず、避難訓練も行われていなかったなど、ホテルの火災対策が不十分であったことも明らかになっています。

御嶽山噴火

2014年(平成26年)9月27日に長野県と岐阜県の県境に位置する御嶽山が噴火しました。

噴火警戒レベル1(平常)の段階で噴火したため、火口付近に居合わせた登山者ら58名が死亡し、日本における戦後最悪の火山災害と言われています。

9月10日には52回、翌11日には85回の火山性地震が観測されており、12日には気象庁は「火山灰等の噴出の可能性」を発表し、各自治体にも通知していました。

しかし、その後、マグマの上昇を示すデータは観測されなかったため、警戒レベルは平常時と同じ「1」のままにし、その後地震の回数が減ったことから、登山者への警戒呼びかけなど新たな対応を求めることはありませんでした。

だから、一般の登山者は「御嶽山が噴火するかもしれない・・・」などとは露程も思っていなかったようです。

また、犠牲者の中には、噴火の写真を撮影していた人も複数人おり、「写真を撮らずに早く逃げていれば助かった可能性もある」と言われています。

正常性バイアスに対抗する方法

ここでは、災害時に正常性バイアスの影響を受けないためにどうすればいいのかを解説します。

正常性バイアスの存在を知る

これは、どんな認知バイアスにも言えることですが、まず、正常性バイアスというものが存在することを知るのが大切です。

「災害発生時には冷静な判断が出来ないかもしれない」と知っていれば、避難訓練に真面目に取り組んだり、近所の避難場所を確認したりなど、事前に対策できます。

避難訓練に真面目に取り組む

避難訓練は、どうしても「所詮これは訓練で本番ではないから」と適当に取り組む人も多いと思いますが、災害時には、冷静な判断が出来ないため、訓練で出来ないことが本番で出来るはずがありません。

また、地震だけでなく、火災や大雨、津波などにも備える必要があります。

訓練を重ねることで、災害時にも、自然にいつもと同じ行動をとることができ、身を守れる可能性が高くなります。

災害時には、率先して避難する

自分は冷静に判断出来ていても、周囲の人たちは、正常性バイアスに支配されて「大したことないからまだ避難する必要はない」と思っているかもしれません。

しかし、身近な人が一人でも避難を始めると、他の人たちも、「結構危ないのかな」と思い始めます。

逆に、一人も避難を開始していない状況だと、そのまま誰も避難せずに、犠牲になってしまうことも十分にあり得ます。

「まだ誰も避難してないし、自分も大丈夫だろう」と考えてしまうのです。

だから、冷静に判断して、「これは避難しないと危ない」と思ったなら、出来るだけ周囲の人に避難を呼びかけつつ、自身が避難する旨を伝えてあげて下さい。

あなたの行動一つで、助かる命があります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました