今回は、ニーチェの思想の中でも、「永劫回帰」について解説していきます。
永劫回帰とは?
「永劫」は終わりがない長い時間、「回帰」は同じところに帰ってくるという意味。
宇宙の全ての事象は永遠と同じものが同じことを繰り返しているということ。
「永劫回帰」は、今まで自分の生きてきた人生をそのまま、無限に繰り返す。人は死んだら、今まで経験してきたすべてのこと、うれしいことも悲しいことも全て、一からまったく同じことが始まる。
ニーチェの著書「ツァラトゥストラはかく語りき」で主張した概念であり、「永遠回帰」と訳されることもあります。
永劫回帰はニーチェの哲学の中で最も重要とされています。
永劫回帰はキリスト教の否定
「永劫回帰」はよく誤解されています。
「世界は永遠に繰り返されるから、何度繰り返されても良いように、後悔のない素晴らしい人生を送るべき」などと人生の教訓として捉えられることも多いですが、ニーチェの言いたかったことは全然違います。
世界は意味を持たず、ただあるがままに永遠に繰り返される。世界には目的もない。
これは、世界の歴史には意味があるというキリスト教の世界観や、キリスト教的な時間概念の否定でもあります。
永劫回帰の中では、世界の外部に神を設定することはできません。
そこでは、あらゆる価値の根拠が消え去る。
ルサンチマンや復讐の精神などのキリスト教的価値や、「原罪」という教義からも解放される。
輪廻思想との違い
輪廻転生では、人は無数の転生を繰り返す。これは動物に転生することもあれば、人間に転生することもある。そしてそれは、前世でのカルマに影響されるものである。
また、輪廻思想のゴールは、ループから抜け出すことにある。これを解脱と呼ぶ。つまりループは否定的なものとして扱われる。
一方、永劫回帰では前世からの影響は考慮されない。前世があったかどうかもわからない。そんな状況で同じ状況、同じ出来事が永遠的に繰り返されるのである。ここでは単に「今の生」が繰り返される。
更に、永劫回帰のゴールは、ループそのものの肯定である。今この生が何度来てもかまわない、それで良いのだと強く肯定することにある。つまり、ループは肯定的なものとして受け入れられるものである。
ニヒリズムと永劫回帰
「永劫回帰」は、今まで自分の生きてきた人生をそのまま、無限に繰り返すことであるから、人生そのものが無意味なものに思えてしまいます。
だから、ニーチェは永劫回帰を究極のニヒリズムとしている。
しかし、ニーチェは諦めませんでした。
究極のニヒリズムである「永劫回帰」を乗り越えるにはどうすればいいのか?
その解決策をニーチェは次のように示した。
「これが人生か、ならばもう一度。」という考え方です。
無限に繰り返される人生という運命を無価値なものだと思ったとしても、その運命自体を愛し(運命愛)、今ここにある生を強く肯定する。
これは物凄く難しいことですが、ニーチェはこのように運命を愛することのできる人物を「超人」と呼びました。
超人はこのような世界の中で、ただ前に進んでいく。超人は幼児のように、汚れがない。超人の目的は人類に高貴な価値と健康をもたらすことです。
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