今回は、各国でどのくらい民主主義が浸透しているかという指標を紹介します。
フリーダムハウス
フリーダムハウスは、世界の民主主義の支援と擁護を目的とする米国で最も古い組織です。
第二次世界大戦へのアメリカの参戦とファシズムとの戦いを推進するため、1941年にニューヨークで正式に設立されました。
2021年では、日本は100点満点中96点でした。
内訳を見ると、政治的権利(Political Lights)の項目は40点で満点、市民の自由(Civil Liberties)の項目は60点満点中56点でした。
減点があったのは、以下の4項目です。
- 自由で独立したメディアがあるか(Are there free and independent media?)
- 法律、政策、慣行は、さまざまな層の人々への平等な扱いを保証しているか(Do laws, policies, and practices guarantee equal treatment of various segments of the population?)
- 結婚相手や家族の大きさの選択、家庭内暴力からの保護、容姿の管理など、個人的な社会的自由を享受しているか(Do individuals enjoy personal social freedoms, including choice of marriage partner and size of family, protection from domestic violence, and control over appearance?)
- 個人は機会の平等と経済的搾取からの自由を享受しているか(Do individuals enjoy equality of opportunity and freedom from economic exploitation?)
1については、2014年から施行されている特定秘密保護法、地上波放送に関する法律である放送法第4条、外国のメディアやフリーランスの記者を除外する記者クラブ制度が主な減点理由だと述べられています。
2については、部落差別、アイヌ民族に対する差別、在日朝鮮人、在日中国人に対する差別、LGBT+に対する差別、女性に対するセクハラ、難民の受け入れが少ないことが挙げられています。
3については、夫婦同姓を求める戸籍制度、一部の都道府県や市町村を除いて同性婚が認められていないこと、家庭内暴力があまり報告されないことを挙げています。
4については、長時間労働が一般的であること、派遣社員や契約社員が多いこと、人身売買業者が日本人男性との詐欺的な結婚を斡旋して、外国人女性を強制的に性労働のために入国させる事例を挙げています。
調査方法について
フリーダムハウスの発表する「Freedom in the World」は社内外のアナリストや学術界、シンクタンク、人権団体などの専門家アドバイザーからなるチームによって毎年作成されています。
2021年版では、125人以上のアナリストと40人近いアドバイザーが参加しています。
報告書の草稿とスコアを作成するアナリストは、ニュース記事、学術的分析、非政府組織からの報告書、個人の専門家との接触、現地調査など、幅広い情報源を活用しています。
アナリストは、取材期間中の国境内の状況や出来事に基づいて、国や地域を採点する。
アナリストが提案したスコアは、フリーダムハウスのスタッフと専門家顧問のパネルが参加する、地域ごとに組織された一連のレビュー会議で議論され、弁護されます。
最終的な調査結果は、アナリスト、外部アドバイザー、フリーダムハウスのスタッフの総意であり、彼らは最終的な決定に対して責任を負います。
このような事業では主観性の要素は避けられませんが、格付けのプロセスでは方法論の一貫性、知的厳密さ、バランスのとれた偏りのない判断が重視されています。
それぞれの国や地域は、10の政治的権利指標と15の市民的自由指標のそれぞれについて、0点から4点のスコアを与えられます。
政治的権利に関する質問は、3つのサブカテゴリーに分類されています。
選挙プロセス(3問)、政治的多元主義と政治参加(4問)、政府の機能(3問)です。
市民的自由の質問は、4つのサブカテゴリーに分類されています。
表現と信念の自由(4問)、結社・組織の権利(3問)、法の支配(4問)、個人の自律性と個人の権利(4問)です。
質問の内容と点数、その理由などについては、フリーダムハウスのWebサイトで誰でも見ることができます。
V-dem
スウェーデンのヨーテボリ大学政治学部に本部のある民主主義の多様性(Varieties of Democracy,V-dem)研究所は1789年から現在に至るまで毎年450以上の指標を世界各国について測定しています。
V-Demプロジェクトは、5人の主任研究員、V-Demデータセットがカバーする問題領域を担当する19人のプロジェクトマネージャー、約33人の地域マネージャー、100人以上の国別コーディネーター、3,500人以上の国別専門家により、民主主義に関する世界最大の社会科学データ収集プロジェクトの1つになっています。
選挙制、自由主義、多数決、合意、参加型、審議型、平等主義という7つの項目について、それぞれ様々なデータを基に各国の民主主義について比較しています。
2020年では、日本は179か国中30位でした。
民主主義指数
イギリスのエコノミスト紙の傘下にある研究所「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」(EIU)の民主主義指数は、165の独立国家と2つの領土について、世界の民主主義の状態を示す指標です。
民主主義指数は、選挙プロセスと多元主義、市民の自由、政府の機能、政治参加、政治文化の5つのカテゴリーに基づいています。
これらのカテゴリーに含まれる60の指標のスコアに基づいて、各国は、完全な民主主義、欠陥のある民主主義、(民主主義と権威主義の)混合政権、権威主義政権の4つのタイプのいずれかに分類されます。
2020年では、日本は8.13点で21位で、「完全な民主主義」に分類されました。
2020年は新型コロナウイルスの流行に伴い、民主主義国でも厳格なロックダウンや接触歴の追跡、市民の監視などが行われたことで、167の国と地域のうち116で数値が2019年から悪化し、世界平均は5.37で、民主主義指数が発表されるようになった2006年以降で最も悪い数値でした。
日本について、EIUの報告書では「この変化(2019年よりスコアが上がったこと)は、政府に対する国民の信頼感の向上によってもたらされた」と指摘されており、緊急事態宣言という外国と比べるとかなり緩い対策で、国民が自ら自粛したことが評価されているのかもしれません。
参考
・Freedom House FREEDOM IN THE WORLD 2021 Japan
・Freedom House Freedom in the World Research Methodology
・The V-Dem Project About the Project and Methodology
・Economist Intelligence Unit The state of democracy around the world
・台北駐日経済文化代表処 EIUの2020年版民主主義指数、台湾は東アジアトップに
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