北欧の国スウェーデンと言えば、高福祉、高負担で医療費や教育費が安いというイメージが強いと思います。
今回は、スウェーデンの医療制度の良い点と悪い点を解説します。
スウェーデンの医療の良い点
スウェーデンは福祉国家と言われるだけあって、医療制度が非常に整っています。
分権化の進む医療制度と高い平均寿命

スウェーデンは290のコミューンと21のランスティングに分かれています。医療の地方分権は、保健医療サービス法(リンク先はスウェーデン語)で規定されています。中央政府の役割は、原則とガイドラインを定め、保健・医療に関する政治的課題を設定することです。
全国保健福祉委員会(Socialstyrelsen)は、保健社会省傘下の政府機関で、国民全体が良好な健康状態、社会福祉、質の高い保健・社会保障を確保できるよう情報をまとめ、基準を策定しています。
コミューン・・・日本の市町村に近い基礎的自治体であり、主に教育と社会保障を担当する。
ランスティング・・・複数のコミューンを含むより広域的な自治体であり、主に医療を担当する。
コミューンとランスティングは、それぞれ所管する地域の広さと人口規模によって行政事務を分担している対等な関係の自治体であって、ランスティングはコミューンの上位団体ではない。
医療従事者については、職種の専門分化が進んでいるのが特徴です。
例えば看護師については、地域医療、小児科、外科、老年科、救急などの分野ごとに専門看護師資格が設けられています。
スウェーデン人の平均寿命は、現在、女性で84.29歳、男性で80.6歳となっており、世界でもかなり長生きする人が多いです。
公立病院の医療費が安い
スウェーデンの医療費は通常、GDPの約11パーセントを占めています。
スウェーデンの保健・医療費の大部分は、地方税や市町村税によって賄われており、国からの拠出金も財源となりますが、患者負担は費用のごく一部にすぎません。
医療費は年間1150クローナ(約1万3800円)までで、医師から処方箋を出してもらった薬代も2350クローナ(約2万8200円)までと上限があり、その金額以上の医療費、薬代は無料になります。
更に、スウェーデンの多くの自治体では20歳までの子供は医療費が無料で、歯科治療も23歳まで無料となっています。
世界最先端の大学病院

スウェーデンで特に優れている例として、カロリンスカ大学病院があり、2021年3月にNewsweek/Statistaが25カ国の2000の病院を調査したところ、世界で7番目に優れた病院としてランクインしました。
また、2014年にヨーテボリ大学病院で、世界初の子宮移植による出産が成功し、最先端の不妊治療として注目を浴びました。
スウェーデンの医療の悪い点
ここまで、スウェーデンの医療制度の良い点を紹介しました。
上記だけを見ると、日本よりも圧倒的に優れた制度のように見え、スウェーデンへの移住を勧めたくなります。
しかし、物事には裏表があり、悪い点も存在します。
診察までの待ち時間が長い
スウェーデンの医療制度は日本とは大きく異なり、ホームドクター制度(かかりつけ医制度)を採用しています。
病気になった時は、まずボードセントラルという一般診療所で、内科、皮膚科、整形外科などどんな病気も診る総合診療医に診察してもらいます。
そして必要と判断すれば、総合診療医が総合病院に紹介状を書き、専門医に診察してもらいます。
多くの一般診療所では医師に診察してもらうための予約をする必要があります。
中には、予約なしで診察をしてもらえる一般診療所もありますが、診察まで2、3時間待つことも珍しくありません。
2017年、スウェーデンの公共ラジオSRによると、ヴェステルノーランド県の一般診療所で、一週間以内に医師からの診察を受けることができた患者は平均で82%でした。
同年の公共テレビ放送STVによれば、急病で救急外来に行った場合でも、平均待ち時間は3時間18分で、長い人では7時間以上待つ必要があるとのことです。
ヴェステルノーランド県(Västernorrlands län)・・・スウェーデンの21のコミューンのうち、面積は6番目に大きく、人口は5番目に少ない。(2020年で約24万4500人)
スウェーデンでは、一般診療所に専門医を紹介してもらってから専門医に会うまでに、最低でも2,3週間、長ければ2,3か月かかります。
2020年8月、スウェーデンの市町村議会(SKL)の統計によれば、90日以内に専門医に診断してもらえたのは69%でした。
更に、専門医に診察してもらい、手術が必要であっても、多くの患者はすぐに手術を受けられません。
SKLの統計によれば、全国で90日以内に手術を受けられた患者は46%で、ノールボッテン県ではわずか25%でした。
ノールボッテン県(Norrbottens län)・・・スウェーデン全体の4分の1を占めるスウェーデンで最も広い県であり、
人口は約25万人。
長期間医師に診察をしてもらえず、手術待ち時間も長いため、待っている間に死亡してしまう人もいます。
日刊紙『SVD』によれば、2016年度に病室の空き不足が原因で、乳児から80歳までの13人が死亡しています。
私立病院と歯科治療の高い医療費
スウェーデンでは、公立病院の医療費が安く、年間の上限も定まっているため、高額な医療費を払う必要はありません。
しかし、上記に述べたように、専門医に診察してもらうまでには長い時間がかかります。
一般診療所を介さずに、民間の専門医に診察してもらう場合は、最低でも1日前に予約する必要があります。
医療費は、診療所により異なりますが、非常に高額で、1回で1000クローナ(約1万2000円)から1200クローナ(約1万4400円)ほど支払う必要があります。
この医療費は、年間医療費の上限の1150クローナを超えても無料にならないため、自分で全額支払わなければなりません。
民間の健康保険は以前から増加傾向にあります。
2020年末には69万人弱が健康保険に加入しています。(スウェーデンの人口は約1035万人)
契約者のほぼ6割が雇用主から医療保険を支払われ、契約者の約3割が団体契約として医療保険に加入しています。
残りの1割程度は、本人が自分で加入している個人向け医療保険に加入しています。
雇用者が支払う健康保険は、通常、職場の全従業員をカバーしています。
医療保険には、個人で加入するものと団体で加入するものがあります。
団体保険は、通常、雇用主または個人が所属する労働組合・職業団体を通じて加入します。
現在、さまざまな職種の労働組合などで、組合員に健康保険を提供するところが増えています。
2020年の健康保険の総契約数は1%強の増加で、約8,700件の増加を示しています。増加したのは主に雇用者負担保険で、2%強の増加(8,500件)となっています。
個人向け保険も引き続き伸びていて、2019年と比較すると、5%増加しています(3,300件以上)。
雇用主が負担しない団体保険は3,200件、2%減少しました。
2020年には、15歳から74歳の被雇用者の14%弱が健康保険に加入し、保険契約者は保険会社に約36億クローネの保険料を支払いました。
36億クローナ÷69万人≒5200クローナ(約62400円)を平均的に年間で支払っています。
医療保険に加入すれば、数日で民間の専門医に診察してもらうことができ、看護師への電話相談や、ケガの際に理学療法士に年10回ほど無料で診察してもらえるサービスを受けられます。
しかし、初診の場合には、病気ごとに追加で700クローナ(約8400円)ほどを支払わなければなりません。
こうした高額な医療費を払って初めて、待ち時間の少ない医療サービスを受けることができるようになるのです。
また、歯科治療費は医療費とは別で、年間1150クローナを超えても無料にはなりません。
スウェーデンでは歯科治療費が高く、公的歯科でも検査は855~1415クローナ(約1万円~1万7000円)ほど、1本の虫歯治療では約820クローナ(約9800円)もかかり、民間の歯科では更に高額になります。
しかし、近年では、歯科治療費を支払う必要がある年は、国の歯科治療費補助を受けることができます。
特別に歯科治療が必要な場合は、ランスティングや地域から歯科治療費の補助を受けることができます。
歯科治療にかかる費用の負担は少なくなっているようです。
スウェーデンの新型コロナウイルスの現状と対策
スウェーデンでは、2021年12月16日時点で、累計の感染者約125万人、死者約15200人となっています。(ジョンズホプキンス大学の統計より)
人口100万人当たりでは、感染者約12万1000人、死者約1478人となっています。
日本では、人口100万人当たりの累計で、感染者約1万3700人、死者約145人となっています。
人口100万人当たりの死者を見ると、世界で最も死者の多いアメリカは2456人、イタリアは2243人、イギリスは2200人、ロシアは1975人、フランスは1804人、ドイツは1291人となっています。
北欧諸国の人口100万人当たりの死者を見ると、デンマーク524人、フィンランド236人、ノルウェー224人となっています。
世界全体の人口100万人当たりの死者が684人であることを考えると、スウェーデンは死者の多い国であると言えます。
スウェーデン政府の対策
スウェーデン公衆衛生局によると、スウェーデンの戦略は、高齢者や弱い立場の市民を保護し、ウイルスの拡散を遅らせ、医療制度に負担をかけないことを目的としていました。
多くの国が全国的な封鎖や夜間外出禁止令を出していたが、そうした措置は人々の移動の自由を侵害するものとしてスウェーデン憲法で禁止されており、スウェーデンの伝染病に関する法律では個人と建物などの小さな地域の隔離しか認められておらず、地理的地域全体に対する隔離は認められていません。
スウェーデンの公衆衛生活動は、個人の責任を重視した自主的な対策という強い伝統の上に成り立っており、日本の「緊急事態宣言」と似ています。
法的拘束力のあるルールの例としては、50人以上の参加者が集まる公共の場の禁止、老人ホームへの訪問、レストラン、カフェ、バーでの混雑が挙げられます。
法的拘束力のあるルールに加え、公共交通機関の混雑回避や、機会がある人は在宅勤務を呼びかけるなど、国民がルールや推奨事項を守りやすくするためのガイドラインも用意されています。
業務や雇用主は、感染拡大を防ぐための活動を適応させる責任があります。
2021年1月10日、スウェーデンは一時的なパンデミック法を施行し、政府にCovid-19の蔓延を制限するためのより多くの法的権限を与えました。
スウェーデンのCovid-19の予防接種は2020年12月に開始されました。2021年11月時点で、16歳以上の人口の約82%が2回接種を受けました。
高いワクチン接種レベルだけでなく、医療サービスへの負担、死亡率、感染拡大のリスク評価に基づいて、スウェーデン政府は2021年9月29日にCovid-19の感染拡大を抑えるために設けられていた制限のほとんどを撤廃しました。
公的な集会やイベントの出席者数に関する制限を撤廃した。
公的な集会・イベントの入場者数制限を撤廃。
飲食店における宴会規模、宴会距離などの制限を撤廃。
2021年9月に公衆衛生局の在宅勤務の助言が削除されたが、2021年12月に雇用主は再び、従業員が在宅勤務できるよう促進するよう助言された。
2021年12月1日から、100人以上の公共の屋内イベントに参加する18歳以上の人は、ワクチン接種証の提示が必要になります。
積極的なトリアージ?
2020年3月頃から、毎日の記者会見では、集中治療室に空きがあることが強調されていました。
しかし、スウェーデンの首都ストックホルムでは、80歳以上の高齢者や、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、BMI40以上、ペースメーカー装着など、一つ以上の重篤な全身疾患を持つ患者にはICU(集中治療室)での治療は行うべきではない、というガイドラインが存在しました。
これは、政府による意図的なトリアージが発覚した事例です。
経済支援
スウェーデン政府は3月16日に、最大3000億クローナ(約3兆6000億円)の企業支援措置を決定しました。
労働時間を短縮する新しいシステムで、従業員は元の給与の90%を受けとれます。
国が費用の大部分を負担するため、雇用主は給与負担を半減することができます。
日本の国民一律10万円給付のような政策は行われなかったようです。
参考
・Swedish healthcare is largely tax-funded. And the overall quality is high.
・Statistiska centralbyrån: Folkmängd i län 1749–2020(Excelファイル)
・Svensk Försäkring Sjukvårdsförsäkring
・COVID-19(新型コロナウイルス感染症)グローバルトラッカー
・The Public Health Agency of Sweden’s work with COVID-19
・Here’s a brief summary of how Sweden is handling the Covid-19 pandemic.
・Andelen äldre covidpatienter har minskat kraftigt
・What does the coronavirus mean for the Swedish economy?
・スウェーデン 福祉大国の深層 金持ち支配の影と真実 単行本(ソフトカバー) – 2021/1/23
コメント