「ハロウィーン」のシンボルとして最もよく知られているのが「ジャック・オー・ランタン」ではないでしょうか。
現代のジャック・オー・ランタンは通常、カボチャに表情が彫られたものですが、元々はカボチャではなかったことを知っている人は少ないと思います。
そこで、今回はジャック・オー・ランタンの歴史を解説します。
カブからパンプキン(カボチャ)へ

アイルランドとスコットランドでは、カボチャが自生植物ではないので、大きなカブがジャック・オー・ランタンやその他のハロウィーンのデコレーションを作るために利用されてきました。
スコットランドでは、少なくとも一つの伝統的な仮装の押韻詩がカブ提灯を主題にしています。
ハロウィーンは下弦の月夜!
キャベツの茎に立つ1本のロウソク。
にらみつける目のカブ提灯が
魔女も魔法使いも怖がらせる
19世紀半ばにアイルランドでジャガイモ飢饉が起こると、多数のアイルランド人がアメリカに移住しました。
アメリカでは、カブは栽培されていなかったため、代わりを探したところ、南北アメリカ大陸原産で古代の原住民も食べていたとされる、パンプキンをジャック・オー・ランタンに使うことにしました。
ジャック・オー・ランタンがハロウィーンで使われたという初めての言及が雑誌記事に掲載されたのは1885年のことですが、1820年にワシントン・アーヴィングが書いたハロウィーンの物語『スリーピー・ホロウの伝説』において、パンプキンがジャック・オー・ランタンとして登場しています。
また、1850年の詩「パンプキン」で、ジョン・グリーンリーフ・ウィッティア(John Greenleaf Whittier)は自分の少年時代とパンプキンを思い起こしています。
パンプキンをジャック・オー・ランタンに使う習慣は、アメリカにハロウィーンが広まる以前に遡るようです。
ああ、少年時代に愛された果物よ! 木の葉が紫に染まり、茶色い木の実が落ちていた昔を思い出してください。
荒々しく醜い顔を皮に刻み、暗闇の中でロウソクが睨みを利かせるように灯っていた頃。
とうもろこしの山を囲んで、心を合わせて笑ったこと、椅子は広いカボチャ、ランタンは月だったこと。
かぼちゃの皮の馬車で蒸気のように旅をする妖精の話をしていた。
Oh, fruit loved of boyhood! the old days recalling,
When wood-grapes were purpling and brown nuts were falling!
When wild, ugly faces we carved in its skin,
Glaring out through the dark with a candle within!
When we laughed round the corn-heap, with hearts all in tune,
Our chair a broad pumpkin,—our lantern the moon,
Telling tales of the fairy who travelled like steam
In a pumpkin-shell coach, with two rats for her team!
1867年の記事によると、ジャック・オー・ランタンは「パンプキン人形」として言及され、その使い道はイングランドのガイ・フォークス・ナイトの習慣から派生した、とされています。
ジャック・オー・ランタンに関する神話や民間伝承
民族学者のジャック・サンティノによると、ジャック・オー・ランタンは収穫とトリックスターの両方を体現しています。
トリックスター・・・神話や物語の中で、神や自然界の秩序を破り、物語を展開する者である。往々にしていたずら好きとして描かれる。善と悪、破壊と生産、賢者と愚者など、異なる二面性を持つのが特徴。
ジャック・オー・ランタンは、ヨーロッパのトリックスター神話に由来します。
ジャック・オー・ランタンにまつわる物語のいくつかは、伝説の英雄でありトリックスターであるジャック・オケントの物語に類似しています。
ジャック・オー・ランタンは元々鬼火の別名であり、「Jack-a-Lantern」や「Jacky Lantern」と綴られることもありました。
「ジャック・オー・ランタン」(jack-o-lantern)は1660年代には「夜警」(”night-watchman”)、1670年代には「ウィルオウィスプ」(will-o-the-wisp)の地方名として、主にイングランド東部で、またイングランド南西部でも使用されていました。
ジャック・オー・ランタンはイギリスの沼地や窪地にしばしば見られました。
これらの光は「鬼火」あるいは沼地のガスと呼ばれ、腐敗した植物や動物から発生します。
特に墓地の周辺に現れる幽霊のような光は死体のロウソクと呼ばれました。
民話では、こうした光は、永遠に地上をさまよう運命の罪人の魂だと信じられており、海岸沿いでは、溺死して、埋葬されなかった魂だと信じられています。
荒野で遭遇するジャック・オー・ランタンは、いたずら好きで悪意に満ち、馬に荷車を転倒させたり、馬を追い回したりします。
最も有名な話
ジャック・オー・ランタンの物語は、しばしば飲酒の悪癖と関係づけられることがあります。
実際、鬼火は「ブランデーの瓶のような顔」と描写されることもあるほどです。
ジャック・オー・ランタンにまつわる最も有名な話にも酒が出てきます。
ハロウィーンの夜、悪名高き飲んだくれのジャックが、地元で飲み過ぎた挙句、その魂が肉体から抜け出そうになります。
魂を手に入れようと悪魔がやって来るが、ジャックは去る前に一緒に一杯やろうと誘います。
悪魔が「持ち合わせがない」と言うと、ジャックは、「6ペンス(イギリスの通貨)に姿を変えて、支払い後に元に戻ったら」、と提案します。
悪魔がコインに化けると、ジャックはその6ペンスを掴み、自分の財布に入れます。
財布には十字架の形をした銀の留め金が付いていたため、悪魔は囚われてしまいます。
ジャックは1年間、顔を見せないと悪魔に約束させ、解放します。
翌年のハロウィーン、寂しい田舎町でジャックは再び悪魔に出くわします。
近くにリンゴの木があり、悪魔に「リンゴを食べよう」と提案します。
しかし悪魔は、「高い所にあり、手が届かない」と言います。
ジャックは、「自分の肩に乗ればいい」と言います。
悪魔が方に乗ると、ジャックはポケットナイフを取り出して、木の幹に十字架を刻みつけます。
すると悪魔は木から降りられなくなってしまいました。
この時、ジャックは金輪際自分に構わないように約束させ、必死になっている悪魔はそれを承諾します。
次のハロウィーンの前にジャックは死亡しますが、飲んだくれで他人に散々迷惑をかけていたので、天国で門前払いを食らいます。
しかし、地獄でも悪魔がジャックを追い返します。
行き場を失ったジャックが帰り道を照らす灯りが欲しいと頼むと、悪魔は、地獄の炉から取った真っ赤に燃えた炭の塊を渡します。
ジャックは自分がかじっていたカブの中にそれを入れ、そうしてできた提灯のを手に、その後、この世をさまよっていると言われています。
アイルランドには、飲んだくれの悪漢、ビリー・ドーソンの物語があります。
彼は飲みすぎて、鼻が炎のように真っ赤で、赤く燃えた火箸で敵がその鼻を掴むと炎を吐き出します。
ビリーのボサボサの神は燃えて炎が上がり、鼻の炎を消すために必死で、冷たい沼地や水たまりに浸かりながら、今でも田舎をさまよっていると言われています。
鬼火が中心の物語
鬼火が中心の物語では、ウィル(またはジャック)は通常、鍛冶屋です。
最もよくあるウィルの物語は、貧しく、しかし邪悪な鍛冶屋は一年分の金を悪魔と取引します。
その年のある晩、鍛冶屋はある旅人に親切にしたため、3つの願いを叶えてもらいます。
- 自分の火事場にあるふいご(鍛冶屋で使われる道具)を手にした者は、それが手から離れないようにして欲しい。
- 自分の椅子に座った者は、そこから立ち上がれなくして欲しい。
- 自分の財布に入ったものは、自分が取り出さない限り、そこから出せないようにして欲しい。
その年の終わり、悪魔が現れると、鍛冶屋は悪魔を騙してふいごを手に取らせます。
鍛冶屋はもう一年の金を約束させた上で、悪魔を解放します。
翌年に悪魔が再びやって来ると、今度は騙して自分の椅子に座らせます。
そして、もう一年の自由と富を約束させ、悪魔を解放します、
また悪魔がやって来ると、鍛冶屋は6ペンスに変身できるかと挑発し、悪魔が姿を変えると、それを掴んで自分の財布に入れ、悪魔が自分を自由にすると承諾するまで、財布をハンマーで叩き続けました。
遂に鍛冶屋が死ぬと、天国からも地獄からも締め出され、地上をさまよう時に道を照らす硫黄の塊だけを渡されます。
イギリスのシュロップシャーに伝わる話では、ウィルは旅人の馬の蹄鉄を取り付ける鍛冶屋です。
旅人は聖ペトロで、ウィルの願いを一つ叶えることになり、ウィルはもう一度人生をやり直すことを願います。
そして、再び飲酒とギャンブルに人生を費やした彼は、遂に死ぬと、地獄に到着します。
しかし地獄は、彼の二度の人生の悪行を知っているため、自分の手には負えないと、地獄に入れることを拒みます。
聖ペトロは彼が天国に入ることを許さず、ウィルは結局、悪魔の元へ戻ります。
すると悪魔は、地獄の火から暖をとるための石炭を嫌々ながら与えました。
その後、ウィルは荒野をさまよい、今でも悪行を重ね、無邪気な旅人を騙し地獄へと誘っています。
無数の物語
西洋の歴史には、他にも数え切れないほどのトリックスターの物語があります。
初期の異本は通常、悪魔よりも死神を中心にしています。
よくあるのは、イエス、あるいは聖ペトロが主人公の願いを叶えるもので、主人公が救済よりも詐欺まがいのことを選ぶために落胆するのがお決まりの展開です。
ジャック・オー・ランタンとトリック・オア・トリート
ジャック・オー・ランタンは、通常、窓辺や家の軒先に置かれます。
アメリカの過程に電気がひかれる以前、ジャック・オー・ランタンは電球のように、ガスの元栓の上に置かれることがありました。
ハロウィーンの夜、トリック・オア・トリートでは、重要な役割を果たしていました。
ジャック・オー・ランタンを照らしている家庭は通常、ハロウィーンに参加し、お菓子を用意しているからです。
ジャック・オー・ランタンは伝統的に、パンテオンの一部をニヤリと笑う顔、あるいは怖い顔を作るためにくり抜くが、外皮部分を切り取ったり、削り取るようにして作ることもあります。
伝統的なジャック・オー・ランタンには他の飾りはないが、色を塗ったり、3Dで細部を施したりするものもあります。
映画やテレビにおけるジャック・オー・ランタン
近年になると、ジャック・オー・ランタンは、数多くのハロウィーン映画やテレビ番組で取り上げられています。
1966年の『スヌーピーとカボチャ大王』では、ジャック・オー・ランタンをこの祝日の最も重要なアイコンとして示しています。
1993年の『ナイトメア・ビフォー・クリスマス』では、主人公のジャック・スケリントンはジャック・オー・ランタンの頭を付けています。
2008年公開の映画『ブライアン・シンガーのトリック・オア・トリート』のいたずらな「サム・ハイン」はジャック・オー・ランタンに似た頭を持っていることが明かされています。
参考
・ハロウィーンの文化誌 単行本 – 2014/8/21 リサ モートン (著), Lisa Morton (原著), 大久保 庸子 (翻訳)
・図説 ハロウィーン百科事典 単行本 – 2020/10/15
リサ・モートン (著), 笹田 裕子 (翻訳), 安藤 聡 (翻訳), 杉村 使乃 (翻訳), 成瀬 俊一 (翻訳)
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