近年、「大人の発達障害」という言葉を聞いたことのある人は多いのではないでしょうか。
今回は、大人の発達障害について解説します。
発達障害とは?

そもそも「発達障害」とは何なのでしょうか。
「発達障害」は、ASD、ADHD、LDの主に3つに分けられますが、全てに共通する特徴があります。
「発達障害」の定義としては以下の3点が主です。
- 生来性、あるいは生後すぐに脳機能の偏りがあること
- 発達期に特性が明らかになること
- 症状が安定していること
ここからは、ASD、ADHD、LDの特徴を簡単に解説します。
ASD(自閉スペクトラム症)
従来、自閉症、アスペルガー障害、広汎性発達障害などと呼ばれていた障害を、まとめてASD(自閉スペクトラム症)と呼んでいます。
症状
基本となる症状は社会性、コミュニケーション、想像力の障害です。
社会性の障害・・・人より物に関心がある、特定の物にこだわる、変化を嫌う、など。
コミュニケーションの障害・・・独り言やオウム返しが多い、独特の言葉遣いや文語のような話し方をする、など。
想像力の障害・・・他人の気持ちを想像できない、視線を合わせられない、身振りや真似ができない、など。
上記に加えて、音や光に敏感だったり、逆に大声で呼んでも気づかないというような、鈍感な場合もあります。
原因
ASDの原因はまだ特定されていませんが、多くの遺伝的な要因が複雑に関与して起こる、生まれつきの脳の機能障害が原因と考えられています。
しかし、環境によって症状が現れない場合もあり、過度なストレスが原因で顕在化することもある。
併存症
様々な併存症が知られていますが、約70%以上の人が1つの精神疾患を、40%以上の人が2つ以上の精神疾患をもっているといわれています。
特に知的能力障害(知的障害)が多く、その他、ADHD(注意欠如・多動症)、発達性協調運動症(DCD)、不安症、抑うつ障害、学習障害(限局性学習症、LD)がしばしば併存します。
発生頻度
最近の疫学調査では、1~2%がASDと見られています。
男性の方が女性よりも多いですが、現在の診断基準が男性向けのものであるため、実際にはASDと診断されていない女性が多数存在すると考えられています。
ADHD(注意欠陥・多動性障害)
ADHD(注意欠如・多動症)は、「不注意」と「多動・衝動性」を主な特徴とする発達障害の概念のひとつです。
症状
ADHDの症状は、不注意・多動性・衝動性の3つです。(多動性と衝動性は区別されないこともあります。)
不注意・・・活動に集中できない・気が散りやすい・物をなくしやすい・順序だてて活動に取り組めない、など
多動性・衝動性・・・じっとしていられない・静かに遊べない・待つことが苦手、など。
発生頻度
最近の疫学調査では、5%~10%程度と言われています。
疑似ADHA
し一部の神経疾患・身体疾患・虐待・不安定な子育て環境などが子どもにADHDそっくりの症状を引き起こす場合があるため、症状だけではADHDと判断できない場合があります。
LD(学習障害)
学習障害(限局性学習症、LD)は、読み書き能力や計算力などの算数機能に関する、特異的な発達障害のひとつです。
症状
LDの主な症状は、読み書き・計算の障害です。
読み書きの障害・・・文章を読むのが極端に遅かったり、一行飛ばして読んだり、単語や分節の途中で不自然に区切ったり、など。
計算の障害・・・数の概念や四則演算のような基本的なことの理解が困難であり、文章題で推論することができない、など。
大人の発達障害について
ここまで、一般的な発達障害について解説してきましたが、発達障害の最大の特徴は「発達期に特性が明らかになり、症状が安定している」ことです。
故に、「大人の発達障害」と言っても、発達期(幼少期から思春期頃)に程度の差こそあれ、発達障害の症状が現れていたはずなのです。
発達障害の多くは、大人になると知能の発達や経験の蓄積によって、症状が目立ちにくくなります。
大人のASD
ASDは(他の発達障害と同様に)大人になったら完治するというものではありません。
しかし、子供に比べれば、ある程度社会に適応している人も多いため、周囲の人は障害だと思っていない場合もあります。
症状
社会性・コミュニケーション・想像力の障害に関しては、大人になると目立ちにくくなります。
一応会話は出来ているけど、時々、空気の読めない発言をしたり、一方的に話し続けたり、比喩表現や皮肉が理解できなかったりなど、多少の問題はあります。
しかし、音や光、触覚などの感覚過敏に関しては、大人になってもあまり改善されない人が多いです。
感覚過敏を訴えていても、幻聴と勘違いされて、統合失調症と診断されてしまうケースもあるようです。
大人のADHD
ADHDは、発達期に最も症状が現れる障害です。
大人になったら、多動性・衝動性は比較的抑制されますが、不注意に関しては継続します。
不注意の症状としては、忘れ物が多い、約束を覚えていない、予定を立てるのが苦手などがあります。
しかし、発達期に一切の症状がなく、大人になってから急に症状が現れた人に関しては、ADHDではなく、他の精神疾患などを疑う必要があります。
ADHDはあくまでも発達期に特性が明らかになる障害であり、遺伝的な要因が大きいため、大人になってから急に発症する可能性は極めて低いと言って良いでしょう。
大人のLD
大人のLD(学習障害)は、社会生活を送る上で、大きな問題となることは少ない。
「字が汚い」とか、「文章を読み飛ばす」程度の人が多く、子供の間は個性として捉えられ、深刻な問題と認識されないことも多い。
LD(学習障害)の人の大半は、知能が低いわけではないため、大学に通っている人も多い。
近年では手書きではなく、ワープロやパソコンで文書を作成することが出来るので、社会に出てからも、仕事によってはあまり困らない場合もあります。
自己診断の危険性について
「大人の発達障害」が有名になるにつれて、インターネット上で簡単にできる自己診断が広まっています。
しかし、自己診断だけで「自分は発達障害である」と決めつけてしまうのは危険です。
まず、ADHDやASD、LDのような発達障害から、双極性障害や統合失調症、パーソナリティー障害のような精神疾患まで、いわゆる「精神的」な問題というのは、かなり症状が重なっているものが多いです。
例えば、ADHDの特徴である多動性・衝動性は双極性障害や統合失調症、パーソナリティー障害の人にも当てはまります。
発達障害の最大の特徴は「発達期に特性が明らかになる」ことなので、大人になって会社で働いて初めて症状が現れた人がいたら、その人はストレスによって何らかの精神疾患を発症した可能性が高く、安易に発達障害を疑うことは出来ません。
セカンドオピニオンの活用
まず、発達障害が研究され始めたのは20世紀前半で、幅広く研究され始めたのは20世紀後半になってからであり、まだまだ分かっていない部分も多く、国や学派によって診断基準や治療法が異なります。
そして、「大人の発達障害」という概念が話題になったのはここ数年の話であり、明確に「専門家」と呼べる人はいないと言っても過言ではありません。
故に、仮に精神科で「大人の発達障害」と診断されたとしても、他の精神科医(大学病院が望ましい)の意見を聞くこと(セカンドオピニオン)は大切です。
また、うつ病や統合失調症の診断を受けている人で、何年も治療しているのに全く症状が回復しない人は、発達障害の可能性があるので、他の精神科医に診てもらった方が良いケースもあります。
まとめ
ここまで長々と偉そうなことを書いてきましたが、私は精神科医でも医者でもない単なる素人ですので、全て鵜呑みにはせず、専門家の書いた本を読んだり、カウンセラーや精神科医に相談したりして下さい。
一人で勝手に判断するのは非常に危険です。
また、上記でも述べましたが、一人の医者やカウンセラーの意見を妄信するのも危険です。明らかに治療が自分に合っていないと思ったら、他の医者に意見を聞いてください。
一人で抱え込んでも問題が解決するわけではありません。
参考
・大人の発達障害ってそういうことだったのか 単行本 – 2013/5/17
宮岡 等 (著), 内山 登紀夫 (著)
・大人の発達障害ってそういうことだったのか その後 単行本 – 2018/6/25
宮岡 等 (著), 内山 登紀夫 (著)
・厚生労働省 e-ヘルスネット ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について
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