古代ギリシアの抒情詩人、アルクマンについて解説します。
アルクマンとは?
アルクマン・・・前7世紀に活躍した抒情詩人。アルクマンの合唱詩(作品)は中世に失われてしまった。
現在では、他者の書いた文書の中に引用という形でごく一部しか残っていない。
宇宙生成説(コスモゴニア)
残されたわずかな断片を見ると、彼が宇宙生成説(コスモゴニア)を内容とする詩編を謳いだしていたことが分かる。
断片によると、アルクマンの考えるコスモゴニアは以下のようなものだと考えられる。
1 宇宙生成以前の状態は、最初「無秩序であり」「区別ない」原料から成り立っていた。この原料は「造られたものではない」とされる。
2 やがて、テティスが生じたが、テティスは「万有を整序する者」とされている。
3 テティスにつづいてポロス、テクモルが生じた。
4 ポロス、テクモルにつづいて闇が生じた。
5 闇が分離されて、昼日(太陽)、月、星辰などが誕生した。
「宇宙生成以前は無秩序で無区別であり、闇から日、月、星辰が誕生した」という話は、初期のギリシアのコスモゴニアにおいて、類似の事例が存在する。
テティスが何を意味するかについては諸説あり、「創造神」「万物の始原である水」「秩序」などが有力な説とされている。
次に、「ポロス」と「テクモル」もまた、他のギリシア神話には一切登場していないため、謎が多い。
しかし、「テクモル」は古代ギリシア語で「境界の目印、境界線、終端」を意味することから、一般に「事物に限界を与え、区分する原理」とみられている。
一方、「ポロス」については諸説あるものの、「人間としての限界内に制限する作用力」と考えられる。
故に、「テティスが生じた後、ポロスとテクモルが生じた」という文は、テティスの万有を整序し秩序立てる原初的営みは、区分・限定の力である「ポロス・テクモル」を生じさせることだと考えられる。
宇宙の生成の最初に登場するテティスは、区分限定原理である「ポロス・テクモル」を伴って初めて、原初の混乱、未区分の状態の「原料」に限界を定めたのである。
哲学への影響
アルクマンの導入した「限定」という観念は、彼の生きた前7世紀という時期においては非常に斬新な発想であり、後の古代ギリシアの哲学に大きな影響を与えている。
例えば、アナクシマンドロスの「無限定」なものとしての「無限なるもの」(ト・アペイロン)や、ピュタゴラス派の「限定」と「無限」、ヘラクレイトスの「限度」などである。
参考
『ソクラテス以前の哲学者』 廣川洋一著
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