「陰謀論」と聞くと、何を思い浮かべるでしょうか?
「フリーメーソン」や「ディープステート」、最近では「Qアノン」やコロナウイルス、ワクチンに関する陰謀論が話題になっています。
このような陰謀論の中には過激な思想や現実から極端に乖離した妄想も多く、「陰謀論が早く消えてほしい」と願う人も少なくないと思います。
しかし、「陰謀論」というのは、世界が、また人間が完璧な存在にならない限り、決してなくならない。
陰謀論の定義

そもそも、「陰謀論」とは何なのだろうか?
「陰謀論」は英語では”conspiracy theory”と言います。
Cambridge Dictionaryによると、”conspiracy theory”の意味は
a belief that an event or situation is the result of a secret plan made by powerful people
となっており、簡単に訳すと、
「ある出来事や状況が、権力者による秘密の計画の結果であると考えること。」
となります。
Oxford Learner’s Dictionariesでは、”conspiracy theory”の意味は
the belief that a secret but powerful organization is responsible for an event
となっており、簡単に訳すと、
「ある出来事に対して、秘密だが強力な組織が責任を負っていると考えること。」
となります。
「陰謀論」は「真偽不明の仮説」であり、後に事実だと判明した場合は、「陰謀論」とは呼ばれなくなります。
北朝鮮による日本人拉致問題も、日本人が行方不明になる事件が多発していた1970年代当時は、「北朝鮮による犯行ではないか?」という噂程度であったが、2002年の日朝首脳会談において、北朝鮮は拉致を行ったことを認めた。
最近では、2018年に東京医大が認めた医学部不正入試問題も、2017年までは、「女子や浪人生は受かりにくいらしい」という噂、都市伝説の類であり、大手マスコミが真剣に取り扱うことはなかった。
陰謀論をなぜ信じるのか

「なぜ陰謀論を信じる人がいるのか?」と疑問に思う人がいるかもしれないが、私たち人間は、誰しも陰謀論を信じてしまう可能性を持っています。
陰謀論の多くは、「少しの事実と大半の妄想(虚偽)」で出来ています。
100%全てが嘘である陰謀論は、逆に珍しいのです。
だから、陰謀論を深く信仰している人に対して、矛盾や事実との乖離を訴えても、「一部の事実が存在することの理由があるはずだ」と考えてしまいます。
人間は、様々な事象や状況に対して、何らかの法則や因果関係を見出そうとします。
代表的な例を挙げると、血液型占い(性格分類)や星座、アナグラムによる予言などです。
ラムゼー理論

数学者フランク・ラムゼイの研究に因んで名付けられたラムゼー理論というものがある。
これは、簡単に言うと、「ある集合や構造が十分な数の要素で構成されていれば、その中には必ず何らかのパターンが現れるというもの」です。
また、数学者のセオドア・モツキンは「無秩序は一般的に起こりやすいが、完全なる無秩序は不可能である。」と述べている。
ラムゼー理論の代表例として、パーティー問題がある。

※イラストは8人ですが、問題では6人です。
あるパーティーに6人が出席する。
6人のうち、互いに知り合いである3人組か互いに知らない3人組が存在することを証明せよ。
というシンプルな問題である。
ここでは証明は省略するが、要するに6人の人間がいれば、そのうち3人はお互いに知り合い、もしくは全く知らないのである。
そして、出席者が増えると、互いに知り合いかどうかという組み合わせは、膨大な数になる。
例えば、「互いに知り合いの5人組か、互いに知らない5人組がいる」という条件を満たすためには、何人が必要かを考えると、現代の数学では未だに43~48人の間であることしか判明していない。
なぜなら、48人の人間が、互いに知り合いか知り合いでないかの組み合わせは2^1128通り。(10^339<2^1128<10^340)
何が言いたいかというと、2^1128通りの組み合わせから何とか発見できる法則が、わずか48人で確実に存在するのです。
要するに、天文学的な確率と思われる事象は、比較的小さな集合から出現し得るのです。
故に、とても大きな集合であれば、果てしなく様々な法則を発見することができます。
更に、人間は膨大な事象における法則性に気付くことができるように進化してきたため、何もない場所に意図的な意味を探してしまいます。
人間の脳は、3つの点が集まった図形を人の顔と見るようにプログラムされている(シミュラクラ現象)ぐらい、全てのものにパターンがあると思い込んでいます。
だから、陰謀論などで見られる「天文学的な確率」や「不自然なほどの一致」などは、「単なる偶然の一致」である可能性をほとんど排除できないのです。(もちろん0ではありませんが。)
例えば、100ページ以上ある書籍では、その文章の中に別の読み方(縦読みや斜め読みなど)をすれば、意味のある文ができる確率は決して低くないのです。
つまり、私たちに恐怖や好奇心を抱かせるようなメッセージや法則は無数に存在するが、その原因をたどっていくと、結局は私たちの意識そのものなのである。
認知バイアス

上の項目で、世界には偶然発生する(発見する?)法則というものが無数に存在し、「天文学的な確率」などと言う煽り文句は、実際にはそこまでの希少性はないことが分かった。
ここからは、明らかに矛盾が生じていたり、陰謀論を否定する客観的な根拠が存在していたとしても、陰謀論を信じる人が多数存在する理由について考えていく。
人間は、日常生活においても、様々な認知バイアスにさらされている。
確証バイアス
まず、「確証バイアス」についてです。
「人間は、正しいことよりも信じたいことを信じる」という話はよく聞くが、これには確証バイアスが深く関わっている。
確証バイアスとは、自分にとって都合のいい情報ばかりを無意識的に集めてしまい、自分の考えを否定するような情報を無視したり軽視したりする傾向のことです。
この傾向は、SNSの普及に伴って、ますます強くなっています。
TwitterやYouTubeでは、自分が最近見たものや、「いいね」や「高評価」をしたものに関連するコンテンツが優先的に表示されます。
だから、陰謀論に関するコンテンツをいくつか見ると、更に陰謀論に関する情報が容易に入手できるようになり、陰謀論を否定するような情報からは遠ざかっていきます。
また、「人工地震」について調べていると、関連するコンテンツとして、「イルミナティ」や「フリーメーソン」のような、他の陰謀論に関するコンテンツが優先的に表示されることもあるので、1つの陰謀論を真剣に信じてしまった人は、複数の陰謀論を信じるようになる可能性があります。
バックファイア効果
バックファイア効果とは、自分が信じたくない情報や、自分に都合が悪い証拠に遭遇すると、もともと持っていた信念を変えるのではなく、むしろそれを拒否して、当初の信念をより強めてしまう傾向のことです。
例えば、陰謀論を深く信じている人に対して、証拠を基に反論したとしても、かえって陰謀論を深く信じてしまうことがあるのです。
故に、陰謀論にはまっている人に対して、安易に全否定するのは得策ではありません。
権威、権力に対する不信

そもそも、人はなぜ陰謀論を信じるのか。
『日経サイエンス』2014年2月号の「陰謀論をなぜ信じるか」という論文によると、人が陰謀論に傾く最初の一歩は、「権威・権力に対する強い不信」であることが多いという。
誰かを「信用ならない」と思ってしまうと、それに対する別の説明がいかに異様であっても、「権力に対する懐疑と整合している」というただその一点でそちらを信頼する傾向が人にはあると考えられている。
これは、政治に対する民衆の心理として、広く見られるものだ。
例えば、日本で地震や台風などの自然災害が発生した際に、人工地震や人工台風などを疑って、政府や首相の責任だとする考えは、未だに存在する。
逆に、政治家以外の国民が善いことをしたおかげで国や国民に利益がもたらされた際に、政府や首相の人気が上がることもある。
要するに、私たちは何か重大なことや、広範囲に及ぶような事象が発生すると、政府や国際機関、巨大企業のような、権威や権力を持つ人や組織が深く関係しているはずだと思ってしまう。
実際には、単なる偶然や、自然発生的な事象もあるのだが。
故に、残念ながら、(本来の)共産主義や原始社会のように全ての人間が平等であり、絶大な権威や権力を持つ人間や組織が一切存在しない世界にならない限り、陰謀論が完全に消滅することはあり得ない。
安心したい

私たちは、日々、様々な不安を抱えながら生きています。
そして、地震や台風、戦争の危機といった大きな問題から、「給料が低い」「周囲の人々が優しくない」といった個人的な問題まで、私たちは様々な問題に直面し続けています。
そこで、仮に、「戦争が起きるのは○○という世界的な組織が原因である」という話を聞いたらどう思うでしょうか?
○○が原因だから、「私たちは悪くない、責任がない」という考えにならないでしょうか?
また、「給料が低いのは社会のせいだ」という説は、一向に給料が上がらない人からすれば、とても魅力的な話です。
しかし、実際には、政府や社会、国際機関にも多少なりとも責任はあるとしても、「自分たちには一切責任がない」というのは滅多にないことです。
同じ国の、同じ地方出身で、同じような環境で育ったとしても、全然違う人間になるものです。(兄弟姉妹が分かりやすい例です。)
故に、自分の外側(社会や環境)に一定程度の責任はあるとしても、全責任を外部に押し付けて、「自分には一切の非がない」と考えるのは、現実的ではありません。
そうは言っても、人間は、自分の短所や失敗、他人と比べて劣った状況などを自分の責任とは認めたくないものです。
だから、何かしらの懸案事項があると、政府や国際機関など、巨大な陰謀のせいにすることで、自身は安心することができます。
要するに、陰謀論を信じる動機として最も深奥に存在するのは、「真実が知りたい」という欲求ではなく、「安心したい」「楽になりたい」というような願望なのです。
陰謀論の対策

第一に、大手メディアを始め、SNSなどでも、できるだけ事実に基づいた情報を広めることは大切である。
しかし、日本やその他の民主主義国家では、表現の自由が保障されているため、陰謀論を流す投稿を全て削除するのは困難である。
陰謀論を実際に信じている人に対して、客観的証拠を用いて間違っていることを説得すると、かえって逆効果になってしまうこともある。
では、既に陰謀論を深く信じている人に対しては、どうすればいいのか。
陰謀論を信じている人に対する一つの策は、陰謀渦巻く世界観を認めてあげた上で、その陰謀論が広まることによって利益を得ることができる、さらなる黒幕の存在を示唆してあげることだそうです。
例えば、ユダヤ人が世界を支配しているという陰謀論を信じている人に対しては、その説が広まることによってユダヤ人を攻撃する人が増えるため、ユダヤ人の敵対勢力(宗教など)が黒幕であるというような話です。(根本的な解決にはなっていない気がしますが。)
また、陰謀論が崩れる可能性があるとすれば、それによってもたらされる結果が、自分にとってより不都合な場合であろう。
例えば、現代医学を全否定している人が現代医学によって命を救われたり、世界を支配していると思っていた悪の組織(政府や国際機関など)が、自分にとって有益な存在となったり、世界戦争を企てていると思っていた人間が世界平和を訴えたりなどです。
陰謀論は真実なのか

「陰謀論」を盲目的に信じるのはもちろん危険だが、全ての陰謀論を全否定し、一切の主張を認めないのも危険である。
例えば、冒頭の陰謀論の定義で示したように、北朝鮮による日本人拉致問題や、医学部不正入試問題など、当初は陰謀論だと考えられていた説が事実だった例も存在する。
故に、現在世界中に数多く存在する陰謀論の中にも、一部、または全部が正しい説も存在する可能性がある。
しかし、現代医学を否定して民間療法の商品を売りつけたり、「世界が滅亡する」などと煽り立てて宗教に入信させて寄付や宗教に関する物を売りつけるような陰謀論は特に社会的弱者を搾取している例も多いため、出来る限り減らしたいものです。
逆に、日常生活に特に支障がなく、お金も一切かからない陰謀論(単なる都市伝説のようなもの)であれば、エンタメの一形態として、多少はあっても良いと思います。
コメント
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