いじめの日本と海外の比較 日本だけの問題ではない

社会問題
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今回は、いじめについて、日本と外国を比較して、課題を考えていきます。

諸外国のいじめと日本のいじめの違いと共通点

いじめ問題について多くの著書を発表している森田洋司先生によると、日本と欧米のいじめの違いは以下のようなものです。

いじめの発生場所
・日本…圧倒的に「教室」が多い
・欧米…圧倒的に「校庭」が多い
いじめる子ども
・日本…同じクラスの同級生が圧倒的
・欧米…異年齢の子どもが圧倒的
いじめの態様
・日本…心理的ないじめが多い
・欧米…暴力的ないじめが多い

また、同じく森田洋司先生によると、日本と欧米のいじめにも、共通点があります。

・無視や仲間はずしは、どの国でもみられる。
・男子には、身体的な被害を与えるいじめが多く、女子では人間関係に絡んだ精神的ないじめが多い。
・いじめられた子どもは、いじめられたことを話そうとしない。また、助けを求めようとしない傾向がみられるなど。

諸外国のいじめの現状

ユニセフの報告書より

2018年9月6日、ユニセフ(国連児童基金)が「学校における暴力やいじめ」に関する新たな報告書を発表しました。

この報告書は、学校において子どもたちが様々な形で直面する暴力について示しています。最新のデータには以下が含まれます。

世界の13歳から15歳の生徒の3人に1人以上が、いじめられたことがあり、ほぼ同じ割合が腕力を伴うけんかをしたことがある(122カ国のデータ。日本は含まれていない)

・先進国39カ国(日本は含まれていない)の11歳から15歳の10人に3人が、他の生徒をいじめたことを認めている
7億2,000万人近くの学齢期の子どもが、学校での体罰が完全には禁止されていない国に暮らす

・男子・女子ともにいじめに遭うリスクは同じだが、女子はより心理的ないじめに遭いやすく、男子はより身体的な暴力や脅威にさらされやすい

となっており、いじめが世界中で起こっていることが分かります。

アメリカ

大学教授によって始められたネットいじめに関しての情報ウェブサイトであるネットいじめリサーチ・センター(Cyberbullying Research Center47)は、2002年よりネットいじめを追跡調査している。その調査によると、

2007年から2014年のネットいじめにあったことのある生徒の率(単位:%)

(出典:Cyberbullying Research Center)

他にも、いじめに関する調査があります。

信頼性が高くタイムリーなデータを提供することでいじめ問題の改善に取り組んでいる、アメリカの教育省管轄の統計機関NCES(National Center for Education Statistics)によると、2013年度のデータによると、いじめを受けたのは生徒の約22%だということです。

また、アメリカでは日本的「いじめ」は少ないようです。

その大きな要因は、中学校からクラスが存在しないからだと考えられています。中学校からは、必須科目とそれ以外は選択科目となり、授業は科目ごとに常に教室を移動します。

だから、日本のような「クラス内でのいじめ」は中学校以上ではほとんどありません

更に、社会人の間でもいじめは存在しており、サンフランシスコの調査会社が1000人の米国人従業員を調査したところ、回答者の45%が職場で暴言、妨害行為、職権乱用、意図的な関係悪化といったいじめを受けているとされます。

カナダ

近年のカナダでは、ネットいじめが深刻化している。カナダは、インターネットの利用時間が1ヶ月40時間と、日本の2倍以上の水準であり、世界で最もインターネットを利用する国と言われており、それがネットいじめに拍車をかけていると言われる。若者の60%以上が「ネットいじめを受けたことがある」と答えたカナダの民間団体の回答もある。

カナダはいじめ問題を個人の問題ではなく、社会全体の問題としてとらえています。

「いじめ行為は不健全で、社会全体に悪影響があること」「いじめ問題は人間関係の問題であること」「健全な人間関係を構築することは社会全体の責任であること」を軸にいじめ撲滅運動を推進しています。

また、2007年からカナダで始まったいじめ撲滅運動は、今ではカナダだけでなく25カ国がこの運動に参加しており、国連も正式に2012年に、5月4日をAnti-Bullying Dayとしました。

この撲滅運動では、学校でも集会が行われ、徹底的にいじめというのはどういった行動を指すのか、いじめが人の成長や社会全体にどれだけ悪影響を及ぼすか、そして仲間がいじめられていたら助ける重要性も教育します。

イギリス

イギリスの学校でのいじめの状況は、ヨーロッパ最悪の水準と言われる。2006年のBBC調査では、生徒の7割の人間が何らかのいじめ被害に遭っている。

2008年にガーディアン紙は、中等学校の生徒の約半数(46%)の生徒が何らかのいじめに遭っていると報じ、イングランドでは48%、スコットランドは43%、ウェールズは32%が被害にあっている。

また、350万人の労働者が職場いじめを受けていると答え、その割合は労働者全体の14%に達する。また、専門性の高さに比例する傾向が見られた。

イギリスの学校では入学する際に「いじめ問題への対策・対応」という事でその学校の方針や・対策の手順などをまとめた書類を生徒と保護者へ配布することがあります。

その書面の内容には

・いじめに対する学校の考え方

・実際に起きてしまった時の対処について

・加害生徒への対応など

が記載されています。

イギリスでは、「いじめは起こるもの」という前提で考えているため、学校には、教室や廊下など、様々なところに監視カメラが設置されています。

また、イギリスなどのヨーロッパ諸国では、シティズンシップ教育(市民教育)というものがあります。イギリスでは、必修となっており、国民に広く浸透しています。

シティズンシップ(Citizenship)」は、日本では、「市民性」と訳されます。これまで「市民権」「公民権」などと訳され、国籍や参政権に近い概念であったものが、「市民社会でいかに振る舞うか」といった概念へと広がってきています。

シチズンシップ教育の目的は「子どもたちが、参加型民主主義を理解・実践するために必要な知識・スキル・価値観を身につけ、行動的な市民となること」です。

シティズンシップ教育の目的を達成するために、「いじめに限らず何か問題が起きた場合には学校だけで無く親を始め地域の人達(市民)で問題を考えよう」という考えが教えられています。

これにより、欧州の国々は日本と比べて、いじめが発生した際に、「仲裁者」が多く、「傍観者」が少ないと言われています。

「いじめの当事者でなくても、いじめの解決に協力するべき」という考えが、少しずつ根付いてきているのではないでしょうか。

フランス

フランスでは、児童の10%が何らかのいじめの被害にあっている。フランスでいじめの標的にされるのは、周りより成績の良い「優等生」であり、「新入生いじめ」が恒例化している。これに対して、フランス政府は厳罰化で対処しており、罰金刑や禁錮となる。

いじめの内容としては、盗難や嘲笑などから暴言や暴力、金品の要求、性的暴力まで幅広い。ネットいじめも拡大しており、フランスの児童の40%がネット上で被害にあっている。フランスは、他のヨーロッパ諸国より、いじめ対策が遅れているとされる。

ドイツ

ドイツでは、年間50万人、実に25人に1人の児童・生徒が少なくとも1週間に1回は同級生からのいじめの被害にあっている。

1990年代初頭から、いじめが注目されるようになった。当初、身体に対する暴力的な行為に注目していたが、次第に精神的な嫌がらせもいじめの範疇に含めることが多くなった。

オーストラリア

国際教育到達度評価学会で参加40か国から集めたデータをまとめたところ、オーストラリアでは生徒の25%以上がイジメを体験しており、クウェート、カタール、台湾、ニュージーランドに次いで、いじめの発生率が高く、世界最悪の水準と評価された。

南オーストラリア大学の研究によると、オーストラリアの児童の15から30パーセントは学校でのいじめを受けているとされ、ディーキン大学の調査では児童の4分の3は何らかのいじめに従事していたとされる。また、SNS、特にFacebookを利用してのネットいじめも増加している。

児童の中には、性的ないじめや、ナチズムに傾倒した言動も見られる。

オーストラリアの教育現場では、教師間でのいじめも深刻であり、ニューイングランド大学の研究者によると、教師の99.6パーセントは、職場で何らかのいじめや嫌がらせ、差別を受けた経験を持つという。

オランダ

オランダでは、いじめはペストを語源とする「Pesten(ペステン)」と呼ばれる。オランダでは7歳からいじめが始まるが、特徴としてクラス全員がまとまって、いじめの対象をいじめることが多く、標的になった子供の99%は転校を余儀なくされる。なお、いじめの種類は「無視」が多い。

オランダの学校では、10人に1人がいじめの被害にあっているとされている。2005年には、オランダの9歳から11歳の子供の、6人に1人がいじめにあっているという調査もある。

オランダ教育省は、いじめ撲滅に取り組んでいるが、逆効果になる事例も報告されている。いじめを苦にした青少年の自殺や、いじめの被害者が耐えかねて加害者を殺害する事件も起こっている。

ベルギー

ベルギーは、フランスなどと同様に、ヨーロッパで最も自殺率の高い国の1つであり、特にオランダ語圏のフランドル地方はヨーロッパで最も自殺が多く、10人に1人が自殺しようと思ったことがあるという調査もある。自殺の理由は、いじめも含まれている。

また、ベルギーの社会人は、8人に1人が職場でいじめの被害にあっており、特に上司からのいじめが多いとされる。

また、2013年、国連児童基金(ユニセフ)と、日本の国立社会保障・人口問題研究所が行った「先進国における子どもの幸福度」という調査によると、「過去数か月に学校で1回以上いじめられたと答えた11歳、13歳、15歳の子どもの割合」でベルギーは37.7%であった。

韓国

高麗や李氏朝鮮時代に新任官吏をいじめる免新礼という風習があり、現代の申告式(ko:신고식)につながっているといわれる。また伝統的に、結婚式の後で新郎をいじめる風習もある。

韓国の学校には一陣会という、いじめなどを行う生徒の団体があり、地域連合を結成し広域化している。卒業式では、卒業生の制服を切り裂く裸コンパという風習がある。

韓国の教育現場では脱北者に対するいじめも頻発し、脱北者の生徒は、罪人のように韓国学生たちの顔色をうかがい、戦々恐々とする日々を送っており、それに耐えかねて不登校に陥る例もある。

韓国教育科学技術省が調査した結果では、通学年齢の生徒たちを対象に実施した調査では、7万7000人以上がいじめられた経験があり、このうち10%は自殺を考えたことがある。

韓国労働研究院が2017年8月に発表した「職場内のいじめ実態調査(社員30人以上の企業で働く満20歳以上50歳未満の2500人を対象に実施)」によると、過去5年間に被害を受けたことがある人は66.3%に上った。

その他

上記で紹介した国々以外でも、今日においていじめは世界中で問題となっている。

また、中国や北朝鮮などの、一党独裁体制の国家では、厳しい情報統制が行われている可能性が高いため、国家が発表しているデータの信憑性は低い。

しかし、自由のある日本でも、「実際には都道府県などの認知件数よりもはるかに多くのいじめが行われているのではないか」という考えもある。

実際に、いじめの認知件数というのは、メディアがいじめについて大々的に報道した年には多くなる傾向があるため、それ以外の年には、真剣に調査していない可能性が高い。

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