あきらめる若者たち

社会問題
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『子供のまま中年化する若者たち』という本を読んだことがあるでしょうか?

2015年発売の本なので、最新の情報とは言えないのですが、現代の若者について考察した興味深い1冊です。

著者は、心身医学、臨床心理学、児童・青年期精神医学、うつ病臨床などを専門とする鍋田恭孝氏であり、子供から青年までの若者世代を30年以上見続けた経験を基に書いています。

若者の現状

まず、「いま若い世代に起きていること」という章では、若者の現状が紹介されている。

  • 身体能力の低下
  • 物事を統合して把握する能力の低下
  • あきらめ、流されて生きる若者の増加
  • 世の中の規範の希薄化
  • 反抗期の減少
  • コスパに敏感
  • 遊び感覚の犯罪の増加
  • 将来は不安だが、現状には満足
  • 群れになれず、一人の世界で生きる

批判が多いように感じるかもしれないが、これらは偏見ではなく、様々な調査等に基づく事実である。

私も「最近の若者」と言われる世代だが、上記の内容には共感することが多い。

昭和の時代と比べると明らかに平均的な運動量は減少しているし、確固たる理想や目標を持って懸命に努力する人も減り、「何となく生きる」人が多いと思う。
集団の絆も弱まり、少人数(2~3人か4~5人ぐらい)の友人とだけ仲良くしていたり、基本的に一人でいる人も珍しくない。

一方で、車や高級品を無理に買う人は減り、自分の身の丈に合った生活を心がけ、「日常のささやかな幸福」を大切にする人が増えたように思う。

臨床現場からの様々な事例

第二章の「精神科臨床30年の現場から」では、著者が実際に医者として対応した若者や、ニュースになった事件の加害者について分析している。(守秘義務の点から、個人の内容は一部変更している)

摂食障害や境界性パーソナリティー障害、不登校・引きこもり、対人恐怖症などは、1980年ごろから急増しはじめた。
一方で、1990年代から、典型的な症状が出ることは減少し、軽度の症状を複数抱えている事例が多くなり、診断も難しくなった。

現代の不登校・引きこもり、対人恐怖症などの若者の特徴の一つとして、筆者は

  • エネルギーの低下
  • 理想を求める思いの低下
  • 主体性の低下(言われたことだけはやる)
  • コミュニケーション能力の低下

などを挙げている。

同時に、近年は「うつ病」が増加している。

特に、若者に特有の「現代型うつ病」や「やさしすぎる、素直すぎる」うつ病が増えていると言う。

従来型のうつ病・・・自分を押し殺して、役割や周囲の期待を優先する傾向があり、まじめさ、几帳面さ、熱心さが特徴的であった。また、役割を果たせないと罪悪感を抱きやすかった。
「過労死」の人の多くはこの従来型のうつ病と考えられる。

症うつ病現代型)・・・20代の若者に多く、家庭状況や学歴などの特徴はない。規範にはストレスを感じやすく、役割そのものを嫌がり(従来型のうつ病とは正反対)、自分自身に愛着を持っている。
漫然たる万能感を抱き、もともと仕事熱心ではない傾向がある。うつ病として診断されることを自ら求め、環境が変わると突然回復することもある。

他にも「現代型うつ病」に分類される症状はあるが、総じて従来型のうつ病に比べて軽症であることが多い。休日には元気で、活動的であるケースも多い。

最近では、「やさしさ」や「素直さ」が目立つタイプや、周囲に合わせすぎて疲れ切るタイプが多く、時代によって原因や症状は様々である。

このような「現代型うつ病」は、

引きこもりの若者と同様に、自ら何とかしようとする意欲が乏しく、誰かが何とかしてくれるのを待っているところがあり、静かに内向きに過ごしながら悩んでいることが多い。

と著者は分析している。

深刻なエネルギーの低下

第3章の「悩めない、語れない若者たち」では、「全てにおいてエネルギーが低下し、若者は元気がない」としている。

反抗期に伴う家庭内暴力(子供から親への暴力)はほとんど消えつつあり、引きこもって静かにネットをしているケースが圧倒的に多い。

思春期・青年期という時代は、幼少期からの生き方の総決算をする時であり、納得いかない自分に気づいたり、納得のいかない他者や社会に気づいて、それを何とかしようともがく時である。そのもがくエネルギーが下がってきている。

反抗期や境界性パーソナリティー障害、不登校や摂食障害など、若者が悩みや問題を抱えているさまざまなケースに関して、「エネルギーの低下」が共通している。

また、「分からない」「別に」「何となく」「びみょう」などの反射的・断片的なコミュニケーションが多く、自分の思いや考えをイメージ化して言葉にする能力が低下している。

自分の感情や欲求についてしか語れず、状況説明がない、不安になった幼児のコミュニケーションに近いケースもある。

更に、前頭葉機能の低下と関連して、注意欠陥・多動性障害(ADHD)や発達障害のアスペルガー障害に近い症状を示す若者が増加しており、小学校などでは、学校の勉強は出来ても、コミュニケーションが成り立たない子供が増えているようだ。

まとめ

紹介した書籍は4章、5章と続くのだが、概して若者批判である。

「若者批判」自体は、古代より続く伝統のようなものであるが、これも同様である。

「最近の若者」について述べている割には1990年代の話をしていたり、個人的な経験に基づく分析もあり、根拠に乏しいと感じる箇所も多かった。

一方で、著者の臨床を基にした分析と言うのは、「若者全体」に当てはまる傾向とは言えなくとも、不登校や引きこもり、うつ病や対人恐怖症など、現代の若者が抱える様々な問題に対しては、一定程度の傾向があると考えても良いだろう。

解決策(改善策)として、10歳までの教育が大切だとしているため、現在思春期~青年期の若者が読んでも、解決策が提示されるわけではなく、あくまでも現状の認識ができる程度である。

故に、幼い子供のいる親や、これから子供を持ちたいと思っている方にこそ読んで頂きたい一冊です。

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