生涯で1000編以上のショートショートを発表した天才、星新一の人生や、作品、評価などについて紹介します。
人物像
星新一の本名は星親一であり、「親切第一」の略称が由来であると言われています。
父親は星薬科大学の創立者で星製薬の創業者・星一であり、母親の伯父(星新一の大伯父)に当たる人物が明治時代の文豪、森鴎外です。
生涯で1000編以上のショートショートを発表しただけでなく、「ダイヤルを回す(=ダイヤル式の電話をかける)」等の「現代では分かりにくい記述」を延々と改訂し続けていました。
人生(概略)
星新一は、1926年、東京府東京市本郷区曙町(現・東京都文京区本駒込)に生まれました。
彼は現在の高校、大学に当たる教育課程で2年飛び級して東京大学農学部農芸化学科を卒業した秀才であり、東大の大学院の修士課程を修了しました。
その後、同人誌「リンデン月報」9月号にショートショート第1作『狐のためいき』を発表したが、父親が急逝したため一時的に会社を継ぎました。当時の星製薬は経営が悪化していたため、かなり苦労したようです。
会社を手放した直後、レイ・ブラッドベリの『火星年代記(火星人記録)』を読んでSFに興味を持ち、たまたま近くにあった「空飛ぶ円盤研究会」に参加しました。
「空飛ぶ円盤研究会」で知り合った柴野拓美らと日本初のSF同人誌「宇宙塵」を創刊し、第二号の『セキストラ』が当時の推理小説界を代表する雑誌「宝石」に掲載されてデビューしました。
その後はショートショートを発表し続けるとともに、「日本SF作家クラブ」の初代会長を務めたり、「星新一ショートショート・コンテスト」の選考を開始したり、日本推理作家協会賞の選考委員を務めるなどで活躍し、SF界では「巨匠・長老」と呼ばれるようになりました。
「ショート・ショート1001編」を達成した以降は、著述活動が極端に減ったようです。
1997年、高輪の東京船員保険病院(現・せんぽ東京高輪病院)で間質性肺炎のために71歳で死去しました。
評価
「ショートショートの天才」と呼ばれることもある星新一氏なのですが、賞はあまり受賞していません。
SFファンが選ぶ年間ベスト賞である星雲賞(1970年創設)を星は一度も受賞していないなど、あまり評価されていません。
1983年の「ショートショート1001編を達成」を契機に、翌1984年夏の日本SF大会で、「星雲賞特別賞」を授賞し、授賞式も行われたが、星新一氏が受賞を拒否し、「幻の星雲賞」となりました。
作品の特徴
星新一氏はショートショートの他に長編小説やエッセイ、父親や祖父について書いたノンフィクションの作品も発表しています。更に、数冊ではありますが、海外の本の翻訳にも携わっていたようです。
ショートショートの特徴としては、具体的な地名や人名がほとんど出てこないため、地域・社会環境・時代に関係なく読めるよう工夫されています。
例外はありますが、基本的に時事風俗は扱わない、当用漢字表にない漢字は用いない、前衛的な手法を使わない、などの制約を自らに課していました。
ショートショートの主人公として「エヌ氏」や「アール氏」「エス氏」がよく登場します。(特に「エヌ氏」が多い)「エヌ氏」を「N氏」としないのは、アルファベットは、日本語の文章の中で目立ってしまうからだと本人が書いています。
作品紹介
星新一氏の発表した膨大な数のショートショートの内、有名なものや私が実際に読んで非常に面白いと思ったものを紹介します。
あらすじを紹介する部分で、結末まで書いているものも多いので、未読の方はご注意ください。
おーい でてこーい
星新一氏の代表作の一つであり、累計発行部数が1位の240万部を超える『ボッコちゃん』という書籍に収録されている話です。
英訳されたものが中学校の英語の教科書に載ったこともあるので、かなり有名な作品だと思います。
あらすじ(ネタバレ含む)
台風が去った後、都会からあまり離れていない村のはずれの山に近い社で、直径1メートルぐらいの穴が発見された。
「おーい、でてこーい」と叫んでも全く反響がありませんし、石ころを穴に投げこんでも全く音がしません。長いひもの先に重りをつけて穴にたらしたり、高性能の拡声器を用いて穴の深さを測ろうとしたが、全く分からなかった。
そこで、穴は「どんな物でも捨てられるゴミ捨て場」として使われるようになった。原子炉のカスや機密書類、死体や汚物など、ありとあらゆるゴミが穴に捨てられた。
ある日、建築中のビルの上にいた作業員は、頭上から「おーい、でてこーい」と叫ぶ声を聞いた。しかし、見上げた空には何もなかった。直後、声のした方角から、小さな石ころが落ちてきましたが、彼は全く気付かなかった。
解説・感想
この話では、タイトルである「おーい、でてこーい」が二回出てきます。これが意味するのは、あらゆるものを飲み込むと思われていた穴は、実は、未来の空に繋がっているということです。
だから、原子炉のゴミや死体、汚物など、物凄い量のゴミがこの後落ちてくることを示しているのです。
星新一氏のショートショートによくある、ブラックユーモアに溢れた話です。
ボッコちゃん
先ほども紹介した『ボッコちゃん』のタイトルにもなっている話です。発売当初は『人造美人』というタイトルだったようです。
ロボットの話なのですが、1971年(昭和46年)初版の本なので、まだインターネットも全く普及していない時代に、ロボットについて書いているのでSF的な作品です。(今の技術なら簡単に作れそうですが)
あらすじ(結末まで含む)
とあるバーのマスターが、あらゆる美人の要素を取り入れた完全な美人のロボット「ボッコちゃん」を作った。趣味で作ったが故に、本物そっくりの肌触りで、人間の美女と見分けが付かなかったが、頭は空に近く、簡単な受け答えと酒を飲むことしかできなかった。
ロボットだと気付かれそうな時は、マスターが上手くごまかすことで、ボッコちゃんは客の間で大人気になっていった。
その中に、ボッコちゃんに熱烈に恋をする青年がいた。当然の如くボッコちゃんは曖昧な受け答えしかしないため、青年は支払いに困るほど通い続けた末に、最後の時が来た。
青年はボッコちゃんと話す中で怒り、酒に薬を入れてボッコちゃんにその酒を飲ませて帰った。マスターはいつものようにボッコちゃんの足の方のプラスチックの管から酒を回収して、客に飲ませ、自分も一緒に飲んだ。
その夜、バーは遅くまで誰一人帰らなかったが、人声だけは絶えていた。ボッコちゃんは次に誰が話しかけてくれるのかしら、と待っていた。
解説・感想
最後は、青年が酒に入れた薬が睡眠薬かもしくは毒薬だったので、夜遅くになってもボッコちゃん以外、誰も起きなかった、という話です。
現代の技術を用いれば、「ボッコちゃん」は作れそうですが、肌触りまで再現するのは難しいでしょうか。作品が書かれた当時からすると完全にSFの世界だったと思うので、技術の進歩を感じる作品です。
殺し屋ですのよ
これも、『ボッコちゃん』に掲載されている話です。怖い話だと思ったらもっと怖い話だったという、星新一氏のショートショートには結構良く見られる衝撃の結末が楽しめる作品です。
あらすじ(結末まで含む)
ある会社経営者のエヌ氏が別荘で休んでいると、明るい服装に明るい化粧の見知らぬ女性に話しかけられた。
エヌ氏が何者かと尋ねると、女は「殺し屋ですのよ」と言う。エヌ氏はとても信じられないが、彼女の真面目な口調と表情に気付き、命乞いをすると、女は「殺しに来たのではない」と言い、実は、殺人の依頼を引き受けに来たことを伝えた。
エヌ氏は最初戸惑った後、「商売がたきであるG産業の社長が死んでくれればいい、と思わないでもない」と言うものの、彼女を全面的には信頼できない。
依頼したことが表ざたになって捕まるのは嫌だ、と考えるエヌ氏に対して、女は「病死させる」と言う。ますます信用できないエヌ氏だが、女は更に「殺した後の成功報酬で結構だ」と言い、6か月以内に確実にやり遂げると意気込む。
エヌ氏は慎重に考えた後、半信半疑ながら女に仕事(暗殺)を依頼した。
およそ4か月後、エヌ氏は「問題のG産業の社長が病院での手当のかいもなく、心臓疾患で死んだ」というニュースを目にした。警察が不審を持って調べることもなく、葬儀も無事に終わった。
その数日後にエヌ氏は別荘の近くで、いつかの女に出会った。エヌ氏は彼女の手腕に感動し、女に報酬を支払った。
女は金を受け取り、エヌ氏と別れた後、素性が分からぬように家へ帰った。そして、地味な見た目に変えた。それから出勤し、白衣を着れば彼女は立派な看護師だ。事実、医師からの信用も厚いため、彼女のたいていの質問に、医師は答えてくれる。
彼女は、余命の短い患者の情報を手に入れていた。医師からは、「決して本人や家族に言うな」と注意されるが、彼女も本人や家族に告げる気はない。
もっとも、カルテで調べた情報をもとに、その人にうらみを持っている人や、商売がたきには・・・
解説・感想
今回は、比較的分かりやすい話でしょうか。殺し屋を自称していた女性は、実は看護師であり、余命の短い人が死ぬタイミングに合わせて、殺人の依頼を引き受けたふりをしていたのです。
確かにこの方法なら、かなり高確率で病死させられるので、上手く考えたなと思いますが、カルテの情報だけで依頼人になり得る人を探せるのかは疑問ですが、そこはフィクションですので、あまり気にしても仕方ありません。
午後の恐竜
『午後の恐竜』という本に収録されている話で、他のショートショートに比べて、少し長めです。
あらすじ
現代社会に突然恐竜が出現した。同時代に生息していたと思われる他の動植物も同時に出現したが、見えているだけで、実在しているわけではない。
蜃気楼か集団幻覚でも見ているのだろうかと考えていると、ニュースが流れた。「この不可解な現象は世界中で発生しており、外国の生物学者が三葉虫を発見したのが最初のようです。三葉虫とは太古の海底に栄えた原始的な生物で・・・・・」
どんな専門家でも、全く何が起きているのか分からない。テレビでは、なるべく外出を控えるようにと注意していた。
様々な恐竜が現れては去っていったが、不思議なことに音は一切なく、音のしないテレビのような光景が展開された。
恐竜がいなくなると、次の時代の生物が現れては消えを繰り返し、時代が経過していった。遂には原始人も登場し、いよいよ現代へと近づく・・・・・
一方その頃、水爆弾頭のミサイルを10発も積んだ最新原子力潜水艦の艦長がとの連絡が付かないことに焦る制服の司令官の姿。地球の運命や如何に・・・・・
というような話です。
解説・感想
特に衝撃的な結末なので、ここでネタばれはしません。未読の方はご自身で読んで頂けると幸いです。
「本当によくこんな話を思いつくものだ」と深く感心した作品の代表格です。いつものショートショートより少し長めですが、続きが気になる展開で、最後まで飽きずに読むことができます。
長めと言っても文庫本で30ページもないので、普通の小説に比べればかなり短い作品です。ただ、星新一氏のショートショートは、10ページに満たないものが珍しくないので、それらに比べると少し長い作品だと言えます。
いそっぷ村の繁栄
『未来いそっぷ』という本に収録された話で、「アリとキリギリス」「北風と太陽」「キツネとツル」「カラスとキツネ」「ウサギとカメ」「オオカミがきた」「ライオンとネズミ」の7つの話があります。
イソップ童話の有名な話ですが、星新一氏が改変し、ブラックな話になっています。
また、それぞれの話の最後に星新一氏が「教訓」と題して一言コメントしているのも特徴的です。
内容はイソップ童話をアレンジしたものなので、ここでは割愛します。
悪魔
『ボッコちゃん』や『きまぐれロボット』など、いくつかの本に収録されている名作の一つです。4ページの短い作品ですが、とても分かりやすい童話のような作品です。
あらすじ(結末まで含む)
とある北の国に、広くはないがたいへん深い湖があり、冬だったので厚く氷がはっていた。
エス氏は休日に湖にやってきて、氷に小さな丸い穴をあけて魚釣りを始めたが、なかなか釣れない。少しすると、何か手ごたえがあり、引っ張り上げてみると、古いツボだった。
何気なくフタを取ると、悪魔が出てきた。悪魔は、「何でもできる。何をやってみせようか」と言うので、エス氏はしばらく考えて、「お金を与えて下さいませんか」と聞いた。悪魔は氷の中から金貨を1枚取り出して差し出した。あっけないほど簡単だったが、本物の金貨だった。
それからエス氏は、何度も「もっと下さい」と頼み込み、そのたびに悪魔は金貨を出してくれた。金貨がかなり増えたところで、悪魔は「これぐらいでやめたらどうだ」と言ったが、エス氏は熱心に頼み込んだ。
悪魔はうなずいて、また金貨をつかみ出し、そばに置いた。
その時、金貨の重みで、氷にひびが入り始めたことに気づいたエス氏は大急ぎで岸へとかけだした。
氷が大きな音を立てて割れ、金貨もツボも、笑う悪魔も、みな湖の底へと消えていった。
解説・感想
最後に金貨も一緒に沈んだことで、また悪魔は金貨を出すことが出来るわけです。
悪魔が出てくる話としては定番のような話で、似たような話を一度は読んだことがある人も多いのではないでしょうか。星新一氏自身も、「作品を書く上で民話の影響を受けている」と語っています。
先ほど紹介した『いそっぷ村の繫栄』だけでなく、彼の作品は全体的に、語り継がれている民話や童話に近いものだと思います。子供から大人まで、また時代や文化的背景の異なる様々な人たちが楽しめる作品が多いのも、童話に似ているなあと思います。
へんな薬
『きまぐれロボット』に収録されている作品です。タイトルがシンプルなのも星新一氏の特徴かもしれません。
あらすじ
ケイ氏は「すごい薬ができた、カゼの薬だ」と新しく開発した薬を家にやってきた友人に紹介した。そして、「ききめをごらんに入れましょう」と言って薬を飲むと、まもなくケイ氏はセキをしだした。
友人が心配すると、「これはカゼひきになる薬なのです、他人にカゼをうつすことはありません」と言い、1時間もするとカゼが治った。
ケイ氏によると、「この薬を飲むと、カゼを引いたのと同じ外見になるが、本人は苦しくなく、害もない。そして、1時間たつと、元に戻る」とのこと。
友人から「何の役に立つのか」と聞かれると、ケイ氏は「仕事をずる休みするのに使える」と言うので、友人は感心して薬を少しもらって帰った。
ある日、今度はケイ氏が友人の家を訪れた。食事中にケイ氏は顔をしかめて、「急に腹痛になったので、これで失礼します」と言い帰ろうとしたが、友人は薬の効果だろうと思ってケイ氏を引きとめた。
ケイ氏の顔は青ざめ、汗を流し、ぐったりとしていたが、友人は信用せず、笑っていた。
しかし、1時間たってもケイ氏は元気にならず、症状はひどくなっていたため、友人はやっと本物の病気かもしれないと考えて、医者を呼んだ。手当を終えた医者から、「なぜもっと早く連絡してくれなかったのですか」と言われてしまった。
このことがあってから、ケイ氏はへんな薬を作るのをやめてしまった。
解説・感想
カゼを引いたように見える薬を作ったケイ氏が、本当に病気になった時に信じてもらえないという話で、少しオオカミ少年の話と似ているような気もします。
父親が製薬会社の創業者であり、星新一氏も東大の農芸化学科を卒業しているため、薬や実験、研究を題材にした話が数多く存在します。
博士が新しい変な薬を作る話は、彼の定番と言ってもいいでしょう。
声の網
『声の網』という本は、12の話が収録された短編集なのですが、「声の網」というタイトルの通り、「声」が全ての話において重要なキーワードになっています。
一応、全ての話は独立した物語なのですが、現在のネット社会を暗示するような近未来的な話という共通点があります。
また、『声の網』では、星新一氏のショートショートにありがちな、最後のどんでん返し的な驚くべき結末がない話が多いのも特徴です。
情報化社会により、個人情報が管理されるようになった社会を描く話など、未来を予想しているかのような話は『声の網』だけでなく、他の小説でも未来の話を時々描いています。
こんな時代が
『夜のかくれんぼ』に収録されている作品です。この『夜のかくれんぼ』には、オチのない(または弱い)話がいくつか含まれています。
「オチのないショートショートは面白くない」と思いきや、一つの話の世界観そのものが面白い、不可思議で、引き込まれる作品が多いのです。これも、星新一氏の天才たる所以の一つでしょう。
あらすじ
国内どころか、世界中で全く犯罪の発生しない世界の話です。
全ての生活はロボットが支えてくれるので人間は寝転んでいるだけで快適な生活が送れるため、世界中の全ての人々が平等で、肉体的な労働は一切ありません。
更に、危険思想を持つ人がいても、実際に行動を起こす人はいないようです。
一体なぜここまで平和な世界になったのでしょうか?
解説・感想
結末と言うか、作中の世界が平和な理由が最後に分かるのですが、ここでは割愛します。是非、一度読んでみて下さい。『夜のかくれんぼ』に収録されている他の作品も面白いです。
現在でも、全ての労働をロボットに任せることは出来ていないですが、自動運転やドローンでの宅配など、新しい技術が普及していけば、50年後にはほとんど働かなくて良い世界になっているかもしれません。最近の技術革新のスピードは目覚ましいので、20年、30年先のことも予測できません。
ロケットとキツネ
『悪魔のいる天国』に収録されている作品です。
あらすじ
解説・感想
参考:星新一公式サイト
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