今回は、20世紀の哲学者ジャック・デリダについて解説していきます。
人物像
ジャック・デリダはフランスの哲学者であり、植民地時代のアルジェリアでユダヤ人家庭に生まれ、大学で哲学を講じていました。
レヴィ=ストロースが完成させた構造主義より後の時代であるため、ポスト構造主義、又は近代より後という意味で、ポストモダンの思想とも呼ばれます。
彼は、西洋の哲学が構築してきた基礎を一旦崩し、新しい哲学を模索しようとしました。
当時の西洋哲学の基礎には、真理は言葉で言い表せるというロゴス(言葉)中心主義や神を究極の目標とする思想などがあった。
脱構築
近代では、二項対立を前提に正しいと思われる一方のみが重視されていました。
デリダによると、以下のようなものが二項対立の代表的な例です。
- 論理的なものを最優先する態度
- 文字よりも声を優先する態度
- 自らが知覚したものを正しい存在だとする態度
- 男性が女性よりも優れているとする態度
- ヨーロッパは他のどの地域よりも優れているとする態度
しかし、このような態度には大きな問題があります。
男性が優位だと考えることで女性の権利は認められませんでしたし、ヨーロッパ中心主義が植民地支配や対外戦争を生み出してきました。
そこでデリダは、こうした西洋近代の哲学体系に特有の二項対立的な態度を疑い、脱構築を試みました。
脱構築・・・既存の物事のあり方をを解体し、1から新たな形に構築直すこと。
建築においても、脱構築主義建築とよばれるものがあります。敢えて破壊したり、ずれていたりする様な従来の建築の常識を覆すような形態やコンセプトの建築です。
また、ファッションや文学などに応用されるなど、「脱構築」という概念は哲学だけでなく、様々な分野で見られます。
ここで大切なのは、「脱構築」は破壊的な営みではなく、むしろ創造的な営みであるということです。
デリダ自身が、「脱構築は正義である」と言っています。
差延
意味
差延・・・違いを生み出す原動力のようなものであり、デリダが考案した造語である。
私たちは、唯一絶対の価値が存在すると考えてしまいがちであるが、この差延という概念は、ぜったいてきな価値に疑問を投げかけます。
語源
「遅らせる、延期する」と「異なる」の2つの意味を持つフランス語の動詞「différer」を名詞化して、差延(différance)という造語を作りました。
フランス語の名詞 「différence」は「差異」という意味だけで、「延期」の意味を含まないため、差延(différance)とは別の単語です。
しかし、差異「différence」と差延「différance」は、発音が全く同じなので、文字として書かれて初めて区別することができます。
このことから、デリダの批判する文字よりも音声を優先する態度によって抑圧されてきた、差異を生み出す原理を象徴する概念とされます。
具体例
ソシュールが「語の意味は、他の語との関係において初めて規定される」「言語には差異しかない」と語るように、言語は単独では意味を持ち得ないのです。
故に、この差異を生み出す原理である差延こそが、全ての物事の根源であると考えられます。この差延の概念は、唯一絶対の価値を否定します。
西洋哲学には、自我は他我よりも正しく、真は偽よりも正しいという価値観が根底にあります。
しかし、自我というのは過去の自分と比較して初めて認識できるものですが、過去の自分は現在の自分から見れば他者であるため、自我は他我の存在がないと認識できないものなのです。
この理屈は真偽や善悪にも当てはまります。
偽があるから真が規定でき、悪があるから善を規定できる。そう考えると、正しいと思われる価値も単独で存在しているわけではありません。
この世に、唯一絶対の価値など存在しないのです。
このように差延の概念により、西洋哲学が当然としてきた価値観が覆ります。そして、物事を1から新たに構築する「脱構築」が可能になるのです。
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